Phantasie File

ファンタジーゲームとファンタジー作品の考察や感想

令和の『Might and Magic Book One』レビュー その1

Might and Magic Book One』(マイトマ 副題『Secret of the Inner Sanctum』)は当時、雑誌等ゲームマスコミが「海外で大ヒット」や「三大RPG」と発売からこそって取り上げ、続編がでるまで1年以上はランキングに残り続けていた傑作ファンタジーゲームと評価されるゲームだ。

マイトアンドマジック MSX2版 メニュー画面


当時、海外のコンピュータロールプレイングゲームを精力的に移植してきたスタークラフトというゲームハウスが、1987年11月14日に日本の国産PC*1PC88/98*2版に移植した。

後にFM77AV版とX1版を1987年12月11日。

X68000MSX2*3版を1988年9月頃。

本Blogではお世話になったコボルドさん MSX2

最終的にPC8801VA専用版*4(発売日不明)

マルチプラットフォーム展開するほどのヒット作となった。

原典はNew World Computing社開発で1986年に発売。

当時の現地PC雑誌やRPG雑誌などでも取り上げられ、レビュアーかなり好評だった。

同世代のビデオゲームでは、前年に『ウルティマⅣ』『バーズテイル』『ファンタジーⅠ』。

同年ではファンタジーでこそないがマッドマックス的世紀末ゲーム『Autoduel』*5スペースオペラ的SFゲーム『Starflight』が発売されヒット。 

当時、日本CRPGはアクション系RPGが主戦力となり『イースⅠ』*6ソーサリアン』や『ハイドライドⅢ』が発売されていた。特にマルチシナリオの『ソーサリアン』が違う形で実装した『マイトマ』と同時期に発売したのは面白い。

テキストベース系*7としては『Wizardrye FC版』(1987年12月22日)や『バーズテイル』(1988)が話題になった。

そして、社会現象にもなった『ドラゴンクエストⅢ』(1988年2月10日)も忘れてはいけない。

また、コンシューマとしてファミリーコンピュータ(FC)版(1990年7月31日)やPCエンジン(CD-ROM²)版(1992年1月24日)が存在している。こちらについてはシステム面だけでなく、ストーリーや世界設定に違いがあるためアレンジバージョンと捉えていいと思う。

当時はロールプレイングゲームバブル時代*8が来ており、その中で国産に比べ「ロールプレイングゲームの先進国アメリカでヒット」「あのウルティマウィザードリィと並ぶ名作」「膨大な世界と高難易度の本格RPG」という格があるRPGで玄人/上級者用という認識だった。

今回の趣旨としては、そんなゲームについて、当時の評価を含め現在プレイしてどう感じたかなどをメインとし、現在プレイするにあたり、特に調査すらままならない情報をPC98版の攻略方法を中心に何度かに分けて語っていきたい。

概要

3Dダンジョン風で表現された広大なMAP*9や豊富な武具や道具などのアイテム数、ダンジョンズアンドドラゴンズ(DnD)系、つまりはファンタジー好きが好む「ファンタジーゲーム基準」で描写されたモンスターの数々。

戦闘システムではWizardryでの隊列を進化させた陣形の変化。

エンカウントごとに隊列の意味があり、隊列が崩れずに戦うと前衛だけが白兵戦、後衛が飛び道具で援護や全員が戦う乱戦になるなどがあり面白みがある。

ランダムエンカウントは発生が抑えられており、固定エンカウントによりエンカウント調整ができる点も良いアイデアで、魔法でエンカウントマスを文字とおり”ジャンプ”することができる。

そして、最も特徴的なのが「Nonlinear game」であったこと。

今で言う「メインクエストクリア」アイテム収集や討伐の順番がプレイヤーに委ねられるゲームである点である。

つまり、ゲーム攻略の順番を自由に決められるデザインになっている。

前評判での広大なボリューム圧倒されるが、実は意外にカジュアルな部分があり、比較的低レベルでMAP間移動呪文を習得可能で移動が快適。広大すぎるといった感じは受けない。

また、トレジャーハンティング(トレハン)でのアイテム収集要素では、魔法による装備の「コピー」が可能なため人数分装備の確保が比較的楽。

またマジックアイテム類の使用回数は、あまり重くないコストで再チャージが可能。

さらに面白い特徴としては「Nonlinear game」と「クエスト報酬の経験値」というアイデアの誤算で知識があれば、比較的短期でレベリングやメインクエストクリアが可能であり、当時としては珍しい「Speedrun」*10が可能なビデオゲームでもあった。

さらに日本に移植されたスタークラフト版はプレイアビリティの改善もあり、

  • AppleIIDOS版に比べ*11、呪文使用時に呪文用ウィンドに名前が表示され、番号を暗記する必要性がない。
  • AppleIIDOS版は戦闘開始時のみ、一番先頭にいるモンスターのみ表示。スタークラフトの移植版以降、モンスターが戦闘時に常時表示されて、また先頭のモンスターが倒されると次のモンスターが表示される。
  • AppleII版に比べ貧弱な上、間違って指定されていたモンスターグラフィックも書き直され実装。

気になる点

当時平均レベルと比べても貧弱なグラフィックレベル。

  • イベントグラフィックが(メッセージすら)少ない。
  • せっかく野外を描いているのに表示が異常で自分の位置が視認できない。また自身がいるマスしか見えない事が多々ある。
  • 見渡すことができない。離れた場所にあるオブジェクトが全く表示されないため、予備情報なしの冒険ではMAPの全コマに行くしらみつぶしが必要。

プラットフォームごとの問題点もあり、PC98ではFM音源非対応*12のため、BEEP音のみ。

X68000/MSX2版で「アンレコ・グリア果樹園」*13が修正されクリアが難しくなった。

また(自環境では)「STAFF+1を装備すると強制クラスチェンジ」「装備によるステータス補正が反映されない」「ステータス上昇イベントが再発動クエストをクリアしても反応しない」などの不具合が確認した。

気になる「とうれない」 MSX2

PC88/98版のダメージ振れ幅とダメージ0*14もある。3-30ダメージ呪文の場合、ある程度ファンタジーゲームの経験者ならば「3D10」つまり10面ダイスを3個振って合計の平均16.5ダメージだと思うが、このゲームではそのまま3~30ダメージで確率は均等であるため3も30も同じ確率で出るという高レベル呪文なのに割の合わないバクチを強いられる。

また、翻訳ではクラスの「Paladins」*15を「戦士」と訳した点も気になる。

気になる点と言えば、事前情報がほとんど知らされない点が挙げられがちではあるが、今プレイしてみると、それより「取得できる情報」が補完できてない点が問題と感じた。

ダンジョンやシナリオ的ギミックのヒントや情報もあまり多い方ではないが1986年発売ビデオゲーム基準では、当時のアドベンチャーゲーム高難易度と比べると優しいとも言える。

が、プレイするにあたって障害がでるのが「世界観」が全く説明されていない点。

ゲームを中盤以降、分かるがこの物語はSF要素を含んでいる事が分かるようになる為、当時多くあったファンタジービデオゲームと見せかけて実は・・・と言った演出を狙ったのだろうが、それでも情報が少なすぎた。

「このVARN*16と呼ばれる世界では近年原因不明のモンスター大量発生のため、地上で暮らすことができず人々は地下(もしくは天井のある)城塞都市に暮らしていた」といった「基本情報」が分からないため

  1. 街でも襲ってくるモンスター。おそらくモンスターが増えているため防壁を超えて、侵入してきているのだろうと推測される。
  2. 一般人*17であると思われる貧弱な主人公たちが色々な理由で冒険をせざるえない状況へのアンサー。
  3. 何故、王様が城に閉じこもっているのか?下記の点が説明されていないので分かりづらい。
  4. 王様に目通りできる「マーチャントパス」が何故森に壊れた馬車があるか?恐らく王様に献上品を運ぶ商隊が狂暴化したモンスターに襲われ、放置されていた。

等々がかなり理解できるようになると思う。あと、メインクエストに必須アイテムを渡すNPCあまりもの情報が薄く一枚絵もない点も。唐突に出てきて禅問答をする「氷の女王」や像から実体化してキーを渡す「白黒ぶちの犬」などはメッセージを見ても全く何者か想像できない。

最初に与える情報を少なくするのは、ゲームデザインによるので問題ないが、ゲーム内で「語るべき事が語られない」ように感じた。

システム面ではセーブが宿屋限定もきになるがハマり対策だったのだろう。そこまできにはならない。

個人的感想

さて、当時プレイしていた時感じたのは、日本のビデオゲームにはない自由度の高さと反比例するような日本作品に劣る視認性と操作性の悪さだったと思う。

たしかに「Nonlinear game」という点では先駆者として『ザナドゥ*18(1985)があったが、こちらはどちらかと言えば詰将棋的であり、当時の自分もそこに物語性は無く、このゲームは「違う」と魅力を感じていた。

ゲームに慣れてくると、初期の立ち回り方を学ぶ喜びや本格的名称の武具が入手できる点はモチベーションにはなったが・・・。

それでも、操作性が「ネック」だった。キーボードに中途半端にキーバインドされていた為、キャンプ時にキャラクター選択をするため「+」キーを押し続ける(6番目なら6回押す)と言った面倒さ。

なぜかキャンセルと決定を同じリターンキー(エンターキー)に割り当て、マシンスペック*19からくる遅延とキー入力のバッファによるコマンド入力ミスなどストレスが多いなど、正直遊びづらい。

何よりリセット回数が多いのだ。戦闘中の「即死攻撃の頻発」「読込」「反応遅延」

「どこでもセーブロードが出来ない」=「即時再開が不可能」

さらには当ゲームの性質上そのマス行かないと「空っぽのマス」か「トラップやイベント」か「NPC」なのか分からない点が重荷になる。

先ほど挙げた即死攻撃「根絶」。即死+分解*20の存在で、ペナルティを避けるには街に戻っての寺院での復活など復帰に時間がかかりすぎるのも、当時の基準でもかなりの苦行だった思い出がある。自身はクリアした思い出がないので、途中で脱落したのだろう。

というわけで、現在ならエミュレータを使えば、そのようなマイナス部分を気にせず、現在なら快適なプレイできるのではないかと思いたち、『ダン飯』によるファンタジー熱がある今こそと再挑戦してみたのだった。

つづく

*1:当時日本では、DOS機ではなく、各社がプラットフォームを持ち、NEC、シャープ、富士通がしのぎを削っていた

*2:PC8801シリーズSR以降 PC9801シリーズ  2DD・2HD5インチ/3.5インチ

*3:当時では珍しいアスキーが推進したホビーパソコンの共通規格

*4:PC88系は基本8bitマシーンであるがVAは16bitであるため独自仕様。

*5:テーブルトップRPGカーウォーズ』のアレンジ移植。スティーブンジャクソン認可済み

*6:イースⅡは1988年4月22日~

*7:所謂本格RPGと称される

*8:ポニーキャニオンウルティマ1~3のリメイクや4以降をア発売するなど参戦する程

*9:野外だけで1MAP16*16マスを20枚分。

*10:日本で言う「RTA

*11:マジックレベル1の4番目の呪文は1、4とキー入力する

*12:「当時は」ビジネス機扱いの為しかたない部分もあるが

*13:D-3 0-2 アイテム/Gold/ジェムが貰えるクエスト。何度も受けられるため、武具以外の装備を整えるのに有用

*14:魔法抵抗0のORCにファイヤーボルトを唱えても0ダメに結構遭遇する

*15:現在では聖戦士や聖騎士と訳される。当時の認識でも上級騎士を戦士と訳すのは不自然

*16:大文字も伏線

*17:恐らく農奴か農夫上がり

*18:多層構造になった巨大地下迷宮が扉で繋がっているのだが、扉を通らずアイテムでワープという手も使えるがゲーム内の金、敵、アイテムが有限という特徴がある

*19:特に8bit機では顕著。あのMSX2版で再現した事は素直に凄いと思うが・・・

*20:DnD系で見られる「ディスイントグレイト」で物質自体を消し去る呪文や攻撃で死体が塵に。復活には死体がある状態用呪文(レイズデッドな)より高度な術(リザレクション)が必要になる